月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。
『ほら、ティナ乗ってー。僕が連れて行ってあげるよー』

 本来の姿に戻ったアウルムは、確かに速く走れそうに見える。しかしとても目立つので、この姿を他の人に見られたら大騒ぎになりそうだ。

「で、でもすごく目立ってしまうんじゃない?」

『大丈夫だよー。これがあるしー』

「……あっ、そうか!」

 アウルムの言う”これ”とはアデラの店で買った首輪兼ブレスレットだ。さすが魔道具なだけあって、身体が大きくなっても全く問題なく機能しているらしい。

「だったら乗せて貰おうかな。重かったらごめんね」

 ティナはしゃがんでくれたアウルムの背中にそっと乗ると、首にギュッとしがみつく。
 アウルムの柔らかい毛はとても気持ち良く、思わず夢心地になる。

「あっ! 待って! 私振り落とされない?! 紐で縛った方が良いかな?」

 アウルムの背のあまりの気持ちよさに、我を忘れそうになったティナだったが、騎乗するために必要な道具が何もないことに気がついた。

『落とさないよー。僕が風で守るから安心してねー』

「えっ?! 風?! え、ええ〜〜〜〜っ?!」

< 370 / 616 >

この作品をシェア

pagetop