月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。
 ティナの心配をよそに、アウルムが翼をはためかした。
 すると、身体がふわっと浮き上がり、あっという間に森の上まで飛び上がる。

「うわぁ……! すごい……!!」

 ティナは目の前に広がる光景に感動した。

 木々が生い茂るその先には街なのだろう、大小様々な建物が立ち並び、あちらこちらの煙突から煙が立ち上っている。道ゆく人はとても小さくて、馬車はまるで玩具のようだ。さらにその先には山々が連なり、陰影をくっきりと浮かび上がらせている。

『じゃあ、行くよー!』

 感動しているティナを置いて、アウルムが再び翼をはためかせると、もの凄いスピードで空を駆けて行く。

「うわ、うわぁーーーーっ!!」

 今まで経験したことがない速さに驚いたものの、しばらくして安全だとわかると、ティナにも景色を眺める余裕が出てきた。

 アウルムが言った通り不思議な力で守ってくれているのだろう、ティナは風に飛ばされることなくアウルムの背中に乗ることが出来ている。

 そうしているうちに景色はどんどん流れ、アウルムは街から森、山をあっという間に通り過ぎて行く。

 そして気がつけば、ティナは徒歩で半月は掛かるであろう距離をたった一時間で進んでいたのだった。
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