月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。
「もちろんです。目撃情報を集め、その足取りを追って行ったのですが、突然ぷつりと足取りが消えたのです」

 憲兵団団長は人望もあり、優秀な人物だ。そんな彼が使えるものを全て使ったにも関わらず、人一人見つけることが出来なかったその事実に、閣僚たちは愕然とする。

「……少女一人見つけられんとは……殿下にどう報告すれば……」

 閣僚の一人が呟いた。
 まさか少女と獣魔を見付け、連れて来るだけのことで、これほど悩まされるとは思わなかったのだ。

「……殿下はどうされている? やはりそのご意志は変わらないままか?」

「……はい。どうしても王位継承権を放棄する、と仰っております」

 その場にいた全員が深いため息をついた。そしてどうしてこうなった、と頭を悩ませる。

 ──先日、クロンクヴィスト王国の第二王子であるトールヴァルドが突然留学先から帰国した。

 予定より些か早いものの、優秀な第二王子の帰還に閣僚たちは喜んだ。きっと第二王子は王太子に任命され、正式な後継者になるために帰って来たのだと思ったからだ。

 それなのに──。

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