月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。
大会議
王都ブライトクロイツを象徴するかのようにそびえ立つ王宮の、磨き上げられた大理石の廊下を颯爽と歩く者がいた。
窓から降り注ぐ光を受ける髪は黒色で、その瞳は神秘的な金色だ。
この国で──いや世界で、そんな瞳の色を持つものは一人しかいない。
「あ、あのっ!! トールヴァルド殿下っ!」
どこかの貴族令嬢らしき少女が、トールヴァルドの背後から現れた。
トールヴァルドは長い足を止め、ゆっくりと振り向いた。
「……っ」
自分から声をかけたのに、当の貴族令嬢はトールヴァルドの顔を見て息をのむ。
綺麗な顔立ちと金色の瞳に圧倒され、つい見惚れてしまったのだ。
しかしトールヴァルドは令嬢を一瞥しただけで、すぐに歩き出してしまう。
「……あっ! 殿下……っ! お待ちください……!」
貴族令嬢がもう一度声をかけたが、トールヴァルドは振り向くことなくその場から去って行く。
まるで身体全体から発しているような拒絶のオーラを前に、令嬢はそれ以上何も言えず、ただ立ち竦むことしか出来なかった。