月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。
 閣僚たちはじっとトールヴァルドの話に聞き入っている。その目は真剣だ。

「国の実情を知らない僕たちが上手く国を回せるとでも? 兄上には『社交界の華』と称される婚約者がいらっしゃるのに?」

「おお、アーデルハイト公爵令嬢か……!」

「令嬢方は彼女に心酔しておりますからな」

「かのご令嬢なら、立派な王太子妃になられるでしょう!」

「…………」

 フロレンツは言葉巧みにトールヴァルドに誘導されていく閣僚たちを、黙って見ていることしかできなかった。
 ここで口を挟んでも無駄だと言うことをよく理解しているのだ。

「──ということで結論です。この国の重鎮であらせられる閣僚の皆さんは、それでも兄上が王位を継承することに反対されますか?」

「私は賛成します!」

「私も賛成です!」

「賛成!!」

 会議が始まって小一時間で、トールヴァルドはものの見事に閣僚たちの意識改革に成功した。

「──という訳ですので、兄上。これからもこの国を導いてください」

 呆然とするフロレンツに向かってトールヴァルドはにっこりと微笑んだ。

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