月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。
形跡
ティナを見つけるために王位を放棄したトールは、旅の準備を素早く済ませると、とある場所へと向かった。
トールが向かったのは、王都ブライトクロイツの端にある街だ。
「ここも久しぶりだな……」
狭い路地裏にある、まるで隠れ家のような店の前に立ったトールは、懐かしさを感じながら扉を開いた。
「お久しぶりです」
店の中に入ったトールは、所狭しと並ぶ魔道具が陳列されている棚の、その先にいる店主に向かって挨拶をした。
「……誰かと思えば殿下じゃないか。ちょっとあんたに聞きたいことがあるんだけどねぇ」
トールがこの国の第二王子だと知りながらも、この店の店主──アデラの態度は変わらない。
店の中では身分関係なくただの客なのだ。魔道具を売るも売らないもアデラの気分次第なのだ。
「え? 俺に、ですか?」
「そうだよ! あんたの知り合いらしい女の子がここに来たけど、あの娘は一体何者なんだい?! あんたなら知っているんだろう?!」
「ティナがっ?! ここに来たんですか?!」
トールはティナがこの店に来たことがあると聞いて驚いた。