月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。
 どれも貴重な素材なのに、この森では当たり前のように存在していることにティナは驚愕する。

 おそらく森の途中で見かけた花も見間違いなどではなく、本物の花だったに違いない。

「えぇ〜〜何ここ……。希少素材の宝庫じゃない……!」
 
  一株でも見つかれば幸運だと言われていた貴重な薬草が、種類も豊富に見渡す限り溢れている。あまりにも大量なので、価値観が狂ってしまいそうだ。

 この森は常識では計り知れないほど、不思議な何かがあるようだとティナは気がついた。
 もしかしてこの森に足を踏み入れた瞬間、ありとあらゆる全ての感覚が狂わされてしまうのかもしれない。

「あっ……草を踏まないように歩かなくちゃ……」

 冒険者なら大喜びで収穫しそうな宝の山でも、ティナにとっては美しい風景だ。
 人が触った形跡がないのなら、自分も手を触れないでおこう、と思う。
 何よりもこの美しい光景を壊さず、残しておきたいという思いの方が強い。

 それにこれほど希少な植物が溢れているのなら、月下草が見つかる可能性はさらに高くなるだろう。

< 445 / 616 >

この作品をシェア

pagetop