月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。


 アデラの店から出たトールは、馬に乗るとフラウエンロープへと続く街道をひた走った。

(ティナ……っ!!)

 トールはひたすらティナのことを想い、恋焦がれている。
 最後に見たティナの悲しそうな顔が、ずっと頭から離れない。

 本当はギルドで再会できた時に、好きだと伝えたかった。
 だけど自分の出自を考えると、どうしても想いを伝えられたかったのだ。

 好きだと言えないくせに、ティナには異性として意識して欲しくて、気持ちを隠すことなく接していた。
 その度に焦ったり照れるティナが可愛くて可愛くて、何度自分を抑えたのかわからない。

 それにティナがアレクシスではなく、自分を選んでくれたことがすごく嬉しかった。
 ティナが自分に寄せる全幅の信頼が伝わってくるたびに、心が歓喜していた。

 ヴァルナルとリナとの約束を果たすためだけでなく、トールは誰よりも何よりも、ティナを愛し守ると自分の心に誓ったのだ

 ──それなのに、自分の不甲斐なさと後悔にも似た執念のために、ティナを傷つけてしまうなんて……自分の愚かさに腹が立って仕方がない。

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