月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。

満月


 ──ティナが待ちに待った、満月の日当日。

 大量の料理を作り終えたティナが空を見上げてみると、茜色だった空が紫色から濃い青へと変わっていた。もう間もなく、夜が訪れるだろう。

「あー、間に合ったー! でも、さすがに作りすぎたかな?」

 テーブルには所狭しと料理が並び、焚き火台にも焼き掛けの肉や鍋で煮込まれている料理がある。
 どう考えても五人やそこらで食べられる量ではない。

『大丈夫だよー。僕もいっぱい食べるのねー』

《私たちだっていっぱい食べるわよ》

《とっても美味しそうね》

《早く満月が昇ってくれないかしら》

 ティナの料理を早く食べたそうに、アウルムと精霊たちがうずうずとしているのが伝わってくる。
 そして満月が昇るのを、今か今かと待ち構えている。

「ふふ、たくさん食べてくれたら嬉しいな」

 ティナはお茶を飲みながら、アウルムや精霊たちと一緒に満月を待つ。

 紫と青のグラデーションで彩られた空には、太陽の残滓で金色に染まった雲が浮かんでいる。
 湖にも同じ空模様が広がっていて、どこが境目なのかわからない。まるで空を映す鏡のようだ。
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