月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。
 今だに無詠唱の転移魔法に慣れていないティナは、突然変わった景色に一瞬狼狽えたものの、急いで種を取りにテントへ向かう。

「種を持ってきますので、少しお待ちください!」

 ティナはテントに置いていた魔法鞄から、月下草の種が入った小さい袋を取り出した。
 袋の中には両親の希望である小さい種が入っている。

 ──ようやく二人の願いが叶うのかと思うと、感慨深い想いでティナの胸がいっぱいになる。
 
「お父さん、お母さん……もうすぐだよ」

 ティナは袋をギュッと握ると、キリッと気を引き締め、ルーアシェイアの元へ向かう。

「すみません、お待たせしました!」

 ルーアシェイアが待つ場所に戻ったティナは、袋に入っていた種を差し出した。

《確かに月下草の種だな。其方の両親はどうやってこれを手に入れたのだ?》

 ティナから受け取った種を見て、ルーアシェイアは不思議そうな顔をしている。

「種の入手方法は私も知らないんです」

《そうか、まあいいだろう。ではこれから月下草を咲かせるから、よく見ているのだよ》

「はいっ!!」

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