月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。
 ティナが月下草の種を握ったルーアシェイアの手を見ていると、握ったところから虹色の光が溢れてきた。
 しばらくして光が収まると、ルーアシェイアはそのまま地面にぽとり、と種を落とす。

 ルーアシェイアの一挙手一投足を見ていたティナの瞳が、落とされた種を見て大きく見開かれた。

「──え……っ?!」

 地面に落ちた種が月の光を浴びて発芽したかと思うと、どんどん茎が伸びて葉が茂っていく。そして蕾をつけたかと思うと、幾重にも重なった純白で繊細な花びらがゆっくりと開いた。

「……綺麗……」

 月下草の花が満開になると、上品で柔らかい芳香が漂ってきて、ティナの鼻をくすぐった。

《花は三日間咲き続け、花が終わった後に実をつけるんだ。その中に月下草の種が入っているんだよ》

 花が咲いた後、ついた実は三週間ほどで大きくなるという。
 大きくなった実は地面に落ちて種を蒔き、聖なる力で花を咲かせ、次の満月の光を浴びて成長するのだそうだ。

 月下草の花が咲くと、聖気を纏った芳香が溢れ瘴気を浄化する。
 そうして月に一度開花することで瘴気を浄化し、凶暴な魔物の発生を抑えてくれるのだ。

 世界中で頻発している瘴気溜りも、元はといえば月下草が減少したために起こっている現象のようだ。
 ほとんどの人々はティナのように、月下草を希少な治療薬の素材としか認識していないはずだ。だから自分達の首を絞めることになるとは思わずに、月下草を求めてしまったのだろう。
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