月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。
 すると、ルーアシェイアの時と同じように、虹色の光がティナの手から溢れていた。

 ティナが思わず手を広げると、まるで種に吸い込まれていくかのように、虹色の光が収まっていく。

《ほら、種を地に落としてごらん》

「は、はいっ!」

 ルーアシェイアに促され、ティナが月下草の種を地面にそっと置くと、月の光を浴びた種から小さい芽が顔を出した。

「あっ! 芽が出ました!」

 ティナが見守る中、発芽した種は葉を茂らせながらどんどん成長していく。
 そして茎が伸び、蕾をつけ、透き通るような純白の花びらが徐々に開いていった。

「うわぁ……っ」

 月明かりに照らされた月下草の花には、儚い美しさがあった。
 開花すると同時に漂う芳香は甘くて優しくて、心が洗われるような清々しさを醸し出している。

《成功したな。美しい花だ》

「……っ、はい……っ!! 本当に綺麗……!!」

 月の光を受けた月下草は、花弁自体が淡く光っているように見えた。

 綺麗に咲いた月下草を眺めていたティナの目から、涙がぽろぽろと零れ落ちた。ずっと張っていた緊張が解けたのかもしれない。
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