月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。
『──魔力も神聖力も元は同じものじゃて。ただ、大切な人を救いたいという想いが神聖力となる場合があるでな』

 魔力も神聖力も、ルーアシェイアが言うように元は同じラーシャルード神から与えられたものなのだ。
 その力は人の心の持ちよう次第で、その性質は変化する。
 ならば、ティナが強く願えば、その力は月下草を開花させる力になるだろう。

「有難うございます……。やってみます!」

 ティナは気付かせてくれたルーアシェイアに感謝した。

 何事も出来ないと決めつけたら先には進めない。
 ティナは両親の夢を叶えるためにも──そして、堂々とトールに会いに行くためにも、ここで立ち止まってはいられないのだ。

 ティナは袋から種を一つ取り出すと、祈るように両手でぎゅっと握り締めた。

(──どうか芽吹きますように……!)

 ティナはただ一言、その言葉に万感の思いを乗せて祈った。
 それは神官たちが神に捧げる義務の祈りとは違う、かたちを持たない、けれど心からの祈りだった。

「──あ」

 種を握りしめていた手のひらが熱くなった感覚がして、ティナはきつく閉じていた目を開いて見る。
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