恋の味ってどんなの?
第六章 母の秘密、娘の秘密

第13話

 藍里は2日後、病院で経過観察を受けて特に以上もなく休んだおかげもあってか学校に行けるようになった。
 時雨に抱きしめてもらったのはあの時だけだった。そのあと時雨とさくらが愛し合った声を聞いていた藍里はしばらく自室にこもっていた。

 そんな彼女に時雨は3食美味しいご飯を用意した。さくらはまた仕事に行ったものの藍里がリビングに来ないのを心配する。

 そして学校に行く日の朝。
「藍里ちゃん、お弁当作ったよ。無理しないでね。なんなら車で送るよ」
「ありがとう、たぶん宮部くん外で待ってるから」
 時雨は少しフゥンと言ったが笑顔で藍里を見送った。さくらもこの日は仕事に行っている。

 下に降りると清太郎が待っていた。
「おはよう、藍里」
「おはよう、迎えに来てくれてありがとう」
「当たり前やん……行くぞ。ゆっくりでいい」
「うん」
 時折歩幅が大きくなる清太郎だが藍里に気を遣ってゆっくり歩く。藍里はそれに気づいて嬉しくなる。
 特に言葉は交わすことはなかったがすごく幸せな時間なんだ、と。



 教室に行くと藍里はクラスメイトたちに出迎えられた。
「久しぶり! 無理しないでね」
「百田さん……いや、藍里! 困ったことあったら私たちがなんとかするわ」
「仲良くしましょうね、藍里!」
 アキ、優香、なつみが藍里を囲む。藍里は戸惑って清太郎を見ると

「俺が伝えたらこの3人が真っ先に喜んだ。同性同士、男の俺に言いにくいことあったら彼女たちに……なっ」
 清太郎は頭をかく。藍里はしばらく友達はできなかった。清太郎がそういうなら、と信じようと思った。

 他のクラスメイトにも声をかけられた。こんなに優しくしてもらったことはない。
「藍里?」

 清太郎にそう声をかけられた藍里の目から涙が出ていた。
「藍里、泣かないで……」
 優香がハンカチで藍里の涙を拭う。

「何で泣いちゃったのかな……ごめん。そうだ、みんなノートありがとう」
「大丈夫よ。あ、ノートわかった? アキがめっちゃ字が汚いし」
「うるさいなー、ギャル文字のなつみには言われたくないわ!」
 藍里が笑うとみんなは笑う。その姿を見て清太郎もホッとした。

 担任が朝のホームルームにやってきた。藍里が登校しているのを確認すると
「よかったな、無理すんなよ」
 と声をかけられると藍里は頷いた。こんなふうに多くの人に心配されたり声をかけられることもなかった藍里は戸惑いつつも学校生活を再開するのであった。


 昼になると清太郎といつも食べていた藍里は優香たち3人も交えて5人で食べる。
 弁当箱を開けると焼きそば、唐揚げ、卵焼き、具がツナマヨと梅干しのおにぎり。フルーツはパイン。

「おいしそーっ……これって藍里が作ったの?」
 そう言うアキは購買部のやきそばパンである。
「ううん、違うよ」
「えっ、じゃあお母さん?」
 優香も母親の手作りの弁当だった。デコ弁で、聞くところによるとそれが趣味なんだとか。
 藍里はさくらは作ることもしないし、みんなの知らないさくらの恋人である時雨が作ってるだなんて言うにも言えない。先日時雨と鉢合わせた清太郎に目を配ると彼もどうしよう、みたいな顔をしていた。

「まぁ、そうかな」
 と、返答を濁したが誰もそこまで気にしなかった。
「……美味しそうやな」
「食べる? てか食べてみて」
 清太郎はじゃあ、と取ろうとするとなつみがニコニコと食べた。
「あっ、俺の……」
「弱肉強食、ふふふ。ああ美味しい」
 なつみは昨日の晩御飯をよく詰めて持ってくる。自分で一応作った分類になるようだが。

 クラスメイト三人衆は笑って先に全部弁当を平らげて屋上で遊んでくるーと足早に去っていった。

 また藍里と清太郎だけになる。
「まだ唐揚げ残ってるけど食べる?」
「いいよ、ありがとう。てか……時雨さんだっけ。今日昼ごはん焼きそばだろうな」
「……確かに。それか夜ご飯にも出てくるかもね」
「青のりかけないのも配慮できてる。唐揚げもうまくあがってる。すごいなぁ、やっぱり弁当屋来てほしい」
「……時雨くんも働きたいって。ママがどう言ってるか知らないけど」

 するとそこに担任がやってきた。
「百田くん、話あるんだがきてくれないか?」
「あ、はい……」
 藍里は立ち上がろうとしたが、
「俺も一緒に同席いいっすか」
 清太郎が間に入る。

「何で宮部も」
 担任は何故か眉を垂れ下げがっかりしてるようだ。
「いや、藍里の母さんから……あまり一人にするなって」
 藍里は清太郎を見る。そんなこと言わなかったような、と。

「たしか宮部は百田さん親子と面識あるんだよね。まぁならいいか。ここじゃあれだから……食べ終わったらきてくれないか」

 藍里は何があったのだろうか、と不安になる。清太郎が彼女の肩を叩く。
「大丈夫、俺がいるから」
 藍里は頷いた。

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