恋の味ってどんなの?
 しかしネット社会、すぐにこのことは拡散されて、藍里のこともネットに拡散された。

 清太郎はすぐにそのことを知り藍里たちに連絡して少し早めに集合することになった。

 特に藍里は飄々としていてどうしたの? という顔をしている。
 路子や清香は藍里に大丈夫かと聞かれてもうん、と答えるくらいだった。

「……オーディションって何の話ですか、時雨さん」
 清太郎に問い詰められた時雨は事情を話している最中にスーツを着たさくらが駆けつけた。

「藍里っ……」
「ママ」

 さくらは藍里を抱きしめた。
「大丈夫よ、ママ」
「何やってんのよ……これから大変よ」
「ママ、もう逃げないよ。私は」
 時雨が頭を下げた。
「僕がオーディション受けようって言ったんだ。藍里ちゃんは悪くない……それにすごく頑張ってた」
 さくらは藍里を抱き抱えたまま泣いている。

「さくらさん、藍里ちゃん……ほんと頑張ったよ今まで」
 路子が2人の元に行く。

「さくらさんも本当によく藍里ちゃんを守ったよ。私はあなたが逃げたと聞いた時ショックていうか裏切られたって思ったよ……」
 その言葉にさくらは驚いて顔を上げる。

「……私だって逃げたいのに逃げたのかって。でもここまで本当に守り抜いた。えらい」
「路子さん……」
「藍里ちゃんもだけど一番辛かったのはさくらさん。本当に大変だったね……」
 さくらは涙が止まらない。

「まー、でも、藍里ちゃんもすごいわー。さすが元女優さんの娘。でもあんな大舞台繰り広げてネット中大騒ぎ……」
「……ちょっとやばかったかな」
 さくらは首を横に振った。

「もしなんかあった時は元彼が弁護士だからその辺は手配してある。何か手出しするようだったら動いてくれるって。あともう1人の元カレも普段は会社員だけど裏のハッカーだし。ネット関連に関しては潰しに入ってもらう……金も愛もない人たちだけど情は残ってるみたいで必要な時だけ助けてもらってるの」
 それを知らなかった今彼の時雨は口をあんぐりしてる。

「え、ママの元彼そんなすごい人だったの……」
「……あんたが知らなかっただけよ。養育費も弁護士の元彼が差し押さえとかしてくれたおかげで貰えてるようなもんよ」
「お父さん……ていうか綾人さんは払ってるとか言ってた」
 もう藍里にとって彼はもう他人扱いになってしまったようだ。

「強制的に口座から落としてるだけ。そうでもなきゃ今の高校通えなかったんだから……」
「ママ……すごっ」
 他のみんなもエッという顔をしていた。

「それくらいしないと藍里守れなかったんだから……また大変よ。学校でもあんたのことバレちゃってそこをどうするか」
 すると清太郎が

「それに関しては俺に任せてください。他にも協力的なクラスメイトもいますし」
「そうそう、地元のみんなも綾人さんの素性知ってるしねぇ……変に噂にしないわよ。それよりも藍里ちゃんが生きてる、それだけでほっとするわ」
 路子が藍里を抱きしめた。相変わらず押しが強くて抱きしめる力も強い。

「まぁまぁ明日からのことは忘れてまずは再会を祝して予約した店に行くわよ!」
 路子がそういうとさくらは藍里に耳元で

「ほんと路子さん変わってなくてホッとしたわ」
「……そうだね」
 2人が笑うと清太郎がどうした? と聞くが2人はわらってさぁね、と。

「にしてもなんでママ、スーツだね」
「ああ、あとで言おうかと思ったけど今日面接だったの」
 すると時雨がそれを聞いてホッとしてるようだ。

「やめるの? あの仕事……よかったぁ」
 さくらは時雨の口を塞ぐ。

「路子さんたちは知らないんだから。業界は同じだけど裏方に回わるの。働いている女の人たちを守るために……監視とあと指導とか」
「じゃあママはもう……」
 さくらはうなずいた。時雨もホッとしてるようだ。

「働いてる子たちのパフォーマンス向上させてどんどん稼いでもらう。……辛い環境かもしれないけどそこでしか働けない、輝けない人もいる。わたしたちのように心に傷を受けた人やいろんな事情を抱えた人たちがいる。その仕事を誇りに思ってる子も沢山いる。だから……少しでも働く環境を良くしてあげたい。パフォーマンスしてたからこそ色々見てきたから……それに私はあなたのマネージャーしてた時のように裏方で働くのも楽しかったから。また裏で頑張る」

 藍里にとって何がパフォーマンスなのか、どんなことをしてるのか見てはいない。
 それなりの覚悟をして自分を守ってくれた母親に対して今日してしまったことを悔いる。

「表も裏もないと思うよ、仕事には……」
 藍里もファミレスの裏方と弁当屋ではレジの仕事両方してみたがどちらも大変であり、やりがいもそれぞれあった。でもやはり自分は裏方の方がしっくりくると感じているようだ。

「なに暗い顔して。あんたもそれなりの覚悟して綾人に会ったんでしょ。怖かったね。でももう大丈夫、守ってくれる人は沢山いる……」
「うん……ありがとう」

「あんたも色々恋しなさいよ。時雨くんや清太郎くんに限らず。経験は必要よ」
 やはりさくらには見抜かれていた。時雨とのこと。

 清太郎と時雨が同時にくしゃみした。2人は自分達のことを言われてるだなんて知らない。
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