おじさんフラグが二本立ちました
ベッドごと運ばれたのは
私が入院していた個室だった
あの時はお花でいっぱいだったのに
何もない今は白い壁が目立って見える
ベッドの横のソファに腰掛けて
母へとメッセージを送った
[了解、なにか手伝うことがあれば教えてね]
母からの返事を見て携帯電話をバッグに片付けると竹田さんが恐る恐る声をかけてきた
「あの・・・」
「ん?」
「自分達は一度戻って若の着替えを取って来ようと思ってる」
「あ、そうだよね」
「何か必要な物があれば持って来るし
足りないものは買ってくるけど」
「じゃあ本を持って来てくれる?
彬の部屋に置いてるのがあるから」
「本ね、分かった」
「彬の着替えは病衣もあるし
明日で良いよ」
「一人で大丈夫?」
「うん大丈夫」
狛犬二人を帰して久々彬と二人きりになると
看護師さんが二人でやって来てソファをベッドに組み替えてくれた
しばらく彬の顔を見ていたけれど
いつの間にか眠気に負けた
・・・
「・・・よ・・み・・・みよ」
「・・・・・・・・・っ」
ガバっと顔を上げると「みよ」と
彬の目が開いていた
「彬大丈夫?何ともない?」
「頭が割れそうで。喉が痛くて
オデコも痛いけど俺はどうしたんだ?」
「そっかそっか、良かった
痛いところが沢山あって」
「良くないぞ」
「フフ」
自分の置かれた状況が読めない彬を見ているだけで
急にホッとして涙が溢れた
「みよ・・・?」
まだ身体も起こせないけれど
点滴の針の刺さった手を伸ばして
頭を撫でてくれる手を取った
「みよの所為だよ、ね」
言葉が詰まる
「馬鹿だな
みよの所為じゃないよ」
久しぶりに繋いだ手は温かかった
気持ちを少し落ち着かせてナースコールを押した
「おぉ気が付いたか馬鹿野郎」
直ぐに来てくれた院長は
ひと言目から彬を煽った
「なんだ馬鹿野郎って」
「朝からみよちゃんを泣かすとか
本当馬鹿野郎だ」
「あぁ」
「それに、みよちゃんが連絡くれなかったら死んでたかもしれないんだ
だから大馬鹿野郎だ」
「俺、玲奈の店に入ってからの記憶がないんだ」
「当分禁酒だからな
死んでも良ければ飲め」
「仰せの通りに」
「みよちゃん頼んだよ」
「はい」
「みよちゃん。こいつ放っておいても大丈夫だから
朝ご飯食べに行こうよ
美味しいコーヒーの店があるんだ」
「行きます」
「お前はよい子で寝てろよ」
「あぁ」
院長と看護師長が出て行くと
「みよ、ありがとう」
改めてお礼を言う彬は泣き出しそうで
わざと明るく声を上げた
「そうよ〜命の恩人だから感謝してね
じゃあ悪いけど院長とコーヒー飲んで来るからね」
まんまとそれに掛かった彬は
「酷いぞみよ。浮気だぞ」
泣きそうだった頬を膨らませた
・・・良かった
洗面台で顔を洗うと使い捨て歯ブラシを使う
髪を緩く結ぶと少しメイクもした
「じゃあ浮気してきま〜す」
ヒラヒラと手を振れば
彬は酸素マスクを曇らせながら
「喋るな、目を合わすな
違う席に座れっ」
好きなことを並べていた