巫女見習いの私、悪魔に溺愛されたら何故か聖女になってしまいました。
23 エルの名前
孤児院の子供達に読み聞かせる物語で人気があったのは、未知の世界を冒険する話だったり、悪者をやっつける勧善懲悪の話だった。
お爺ちゃんがいなくなってからの私は、絵本の中で主人公が危機に陥った時、颯爽と現れ助けてくれるヒーローのような存在にいつしか憧れを抱くようになっていた。
一人で孤児院と子供達を守らなければいけない重圧から、押し潰されそうな自分を救ってくれる人がいてくれたら……そんな思いがあったのかもしれない。
いくら祈っても頑張っても孤児院の経営は苦しいままで、藁にもすがる思いで神殿本部に救いを求めても、蔑ろにされた私が信仰心を失いかけたのは仕方がない事だと思う。
……なのに、そんな私を救ってくれたのは皮肉にも神ではなく、まさかの悪魔だった……──いや、悪魔だと、思っていた。けれど……今私の目の前にいる人は、忌むべき色を纏っておらず、輝く金の髪を持つ美しい人で……。
呆然とエルを見ていると、飛竜が翼を大きくはためかせながら地面に着地する。
強い風が吹き荒れ、周りの木々が揺らされて葉っぱが巻き上がるけれど、私はエルから視線を逸らす事が出来ないでいた。