ひねくれ御曹司は気高き蝶を慈しみたい
「貴方達が明音さんと麻里さんの邪魔をしない限りはご協力させて頂きますわ」
「あんた達、やっぱりグルだったか」
粧子は灯至の呟きを黙殺した。終わったことを蒸し返したところで意味はない。結果として、次男の灯至には槙島の全財産の継承権が転がり込んできた。礼を言われこそすれ、文句を言われる筋合いはない。
「邪魔なんてするものか。最高に面白いものを見せてもらった礼に快く送り出してやる。厄介事だって進んで引き受けてやるさ」
灯至は粧子の杞憂をさもおかしいと言わんばかりに笑い飛ばした。
「面白いもの……?」
「あんたにも見せてやりたかったぜ。兄貴に裏切られたと喚くババアの醜い面」
ババアとは槙島の女帝のことだろうか。自分の母親のことをババア呼ばわりとは、なんと底意地の悪いことだろう。
「まあ真面目と誠実が売りの兄貴より、俺の方が色々と要領よくやれると思うぜ」
「お話は以上でしょうか?そろそろお店に戻らないと……」
粧子はチラリと広場に設置されている柱時計を見上げた。そろそろ休憩時間が終わる。店が忙しくなる前には戻りたい。
「平松粧子」
おもむろにフルネームで呼ばれ、粧子は眉を顰めた。
「俺はあんたの秘密を知っている」
灯至は薄気味悪い笑みを浮かべると黒曜石にも似た粧子の黒髪に指を差し入れた。櫛も滑り落ちる柔らかな黒髪を指に絡め巧みに弄ぶ。
からっ風が吹き、銀杏の木が揺れた。扇型の黄金色の葉がひらりと落ちる。
秘密を知っていると告げられた粧子は真っ直ぐ灯至を見据えた。