ひねくれ御曹司は気高き蝶を慈しみたい

「なぜ私を喜ばせたかったの……?」
「そんなの今更言わなくても分かるだろう?」

 灯至は照れ臭そうに首の後ろを掻いた。胸の奥がきゅうっと締め付けられる。

「同じ気持ちだと思うのはおこがましいか?」

 躊躇いがちに笑う灯至を見て、もう言葉にならなかった。だって、まさか、そんな。

「籠の中に閉じ込めて大事に愛でてやりたいのに、自由に羽ばたく姿も見てみたい。困ったもんだ」

 我慢できなくなった粧子は灯至の胸に飛び込み啜り泣いた。灯至の頬を手で包み、慈愛に満ちた表情で額にキスをする。

「どうか名前を呼んで……。直ぐに貴方のところに還ります」
「粧子」
「はい……」
「愛してる」
「はい……!!私もです、灯至さん」

 もう二度とこの人から逃げようなどと思わない。
 愛されたがり屋の蝶は自ら籠の中に入ったのだった。

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