ひねくれ御曹司は気高き蝶を慈しみたい
灯至と粧子の結婚式は三ヶ月後に決まった。挙式と披露宴は槙島パークホテルで行われる。両家の招待客はゆうに百人を超える盛大なものとなる見込みだ。
結婚式を成功させるためには念入りな準備が必要だった。新郎新婦は挙式の日までにいくつものタスクをこなさなければならない。
まずは衣装合わせだ。
「白無垢でなくていいのか?」
この日、二人はホテル提携のドレスサロンへとやってきていた。和装と洋装どちらを着るか聞かれ、粧子は迷わず洋装を希望した。
「仕事で散々着物を着ているのよ。自分の結婚式くらいドレスが着たいわ」
粧子だって生来、着物が好きというわけではない。和菓子屋の若女将という仕事柄、仕事中は着物を着用しているが、休日は洋服も着るし、ファッション雑誌で流行りのスタイルも追っている。真っ白なウェディングドレスにだって人並みに憧れがある。
「あの……袖があるタイプのものもあります?」
「ええ、こちらにございます。長袖のものと袖が短いお品もございますよ」
「わあ、素敵……!!」
「当サロンは都内随一の品揃えを誇っております」
素晴らしいドレスを前にスタイリストとの会話も自然と弾んでいく。
粧子は二時間も悩んでデコルテの刺繍とレーススリーブが美しいクラシカルなドレスを選んだ。
「おっと、忘れるところだった」
帰り際、灯至は思い出したように呟くと胸ポケットからサインペンを取り出した。