ひねくれ御曹司は気高き蝶を慈しみたい

 こんなに暇でいいのかしら……。

 灯至と結婚して二週間。怒涛の日々が終わると粧子は暇を持て余していた。結婚式と土地の売買契約が終わるまでは何かと忙しかったが、いざ終わってしまえば何もすることがない。

 結婚前に比べると、新婚生活は平穏そのものだった。
 
 灯至の差金なのか養母から妻として灯至のサポートに徹するようにとお達しがあり、若女将業の引退を一方的に突きつけられた。

 サポートと言われても家の中で粧子に出来ることなどほとんどない。

 掃除をしようにも平日はハウスクリーニングがやって来るし、洗濯だってランドリーサービスを使っている。

 粧子が出来ることといえば食事を作ることくらいだが、それだって槙島家から通いでやって来る家政婦が作り置きしたものを温めて盛りつけ直すだけだ。
 大叔母の荷物の整理も業者を手配してしまえば、あとはすることがない。
 
 暇を持て余す粧子に対し、灯至は常に忙しそうにしていた。明音から引き継いだ後継者としての実務、地元有力者との付き合いで多忙を極めていた。朝早く出かけ、深夜に帰ってくるのが日常茶飯事。規則正しい生活を送る粧子と顔を合わせることは稀だ。新婚夫婦にあるまじき有様だ。
 しかし、この日灯至は珍しく夜の七時頃に帰宅した。

「新婚旅行?」
「ああ、どこか行きたいところはあるか?」

 行きたいところを尋ねられ、思いつく場所と言えばひとつしかない。

< 34 / 123 >

この作品をシェア

pagetop