ひねくれ御曹司は気高き蝶を慈しみたい

「あの……国内でもいいでしょうか?」
「国内?」
「両親のお墓参りに行きたいの。連れて行ってくださる?」

 ヒラマツで働いている際、仕事を休んで遠方に出かけるにはそれなりの理由が必要だった。両親の墓参りに行くと言えば、泰虎がいい顔をするはずがない。祖父が亡くなって以来、粧子は両親の墓参りに行けていなかった。

「なにも新婚旅行で行かなくてもいいだろう?墓参りくらいいつでも連れてってやる。今週の土曜でいいか?」
「嬉しい……!!」

 粧子は思わず顔を綻ばせた。まさか、こんなに早く墓参りに連れて行ってもらえるとは思っていなかったのだ。
 嬉しくて表情筋が緩んだところをネクタイを解いた灯至に捕えられる。

「んっ……!?」

 結婚式以来の口づけの感触に粧子は慄いた。夫からの蕩けるような口づけは新妻を大いに翻弄した。唇を甘噛みされ、角度を変え何度も顔が往復する。たっぷり五分はそうしていただろうか。

「新婚旅行の行き先は改めて考えておけ」
「はい……」

 粧子は顔を火照らせながら返事をした。灯至は粧子の身体に火をつけるだけつけ、自分はさっさと書斎に入って行った。

 灯至と粧子はいわゆる初夜を迎えていない。夫婦の寝室は完全に別だ。灯至は主寝室で寝起きし、粧子は三つあるゲストルームのひとつを使っている。
 夫婦のあり様について話し合いをしたわけではない。単に粧子にそういう役割を求めていないとばかり思っていたが……。

 もしかして、灯至さんはキス以上のものを望んでいるのかしら……?

 粧子には灯至の考えていることはさっぱり分からなかった。
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