ひねくれ御曹司は気高き蝶を慈しみたい


 結局、槙島の当代、槙島の女帝とも呼ばれる槙島久江(まきしまひさえ)は長男の明音と粧子の結婚を許した。

 この縁談を最も喜んだのは粧子の父だった。兼ねてから事業拡大に向けて資金調達と設備投資を進めていた父にとって、槙島家との縁談はまさに渡りに船。
 粧子が槙島家の一員となれば槙島の名の下により一層商売がやりやすくなる。縁談は粧子の意思を置き去りに瞬く間に進んでいった。

 待ちかねていた結納の日取りが決まると両親の喜びはひとしおで、結婚は嫌だと口にするのも憚れた。

 ところが、結納の席に明音の幼馴染であり恋人でもある沢渡麻里(さわたりまり)が現れたことによって状況は一変する。

 麻里は結納が行われる予定だった槙島パークホテル、胡蝶蘭の間に件の大叔母と共に現れた。そして、集まっていた一同にこの縁談を白紙に戻すという当初とは真逆の大叔母の意向を伝えた。

 その瞬間から胡蝶蘭の間は天地をひっくり返したような大混乱に陥った。当然だ。これまで是としてきたすべての事柄が覆ったのだから。

 平松家、槙島家の双方が責任を擦りつけあう中、粧子には一連の騒動の元凶とも呼ぶべき土地の権利書一式が大叔母より託されたのだった。
< 4 / 123 >

この作品をシェア

pagetop