ひねくれ御曹司は気高き蝶を慈しみたい

「これからどうする?泳ぎに行くか?」
「泳ぐの……?」
「沖縄まで来ておいて泳がないなんて正気か?」
「水着を持ってきていないもの……」
「あの大荷物の中に入っていないのか?」
 
 改めて大荷物を揶揄され粧子は恥じ入った。スーツケースをひっくり返したとしても水着は出てこない。そもそも事故に遭って以来、水着を着たことがない。水泳の授業もずっと欠席していた。
 今でこそ脇腹以外の傷は薄れてしまったが、学生時代は身体のあちこちにまだ痛々しい傷が残っていた。
 水着になれば普段は隠しているものが露わになる。珍しいものでも眺めるように身体をジロジロ見られたくなかった。

「持ってないなら買いに行くか」
「え!?」
「楽しまなきゃ、損だろ?」

 灯至が案内したのはホテルの中にある水着ショップだった。さすがリゾートホテル。小さなホールを埋め尽くすほどの水着の数に目眩がしそうだ。レディースのエリアに足を踏み入れ、ひとまず端から眺めていく。
 水着といえばビキニかワンピースぐらいしか思いつかないが、今は種類が細分化されていてデザインも豊富だ。

 これなら、脇腹以外の傷も隠せそう。というか、可愛いくて着てみたくなっている……。

「気に入ったものはあるか?」
「あ、はい。これにします」

 粧子はタンキニと呼ばれるタンクトップとビキニが融合した水着を選んだ。白と黒のチェック柄で、裾がフリルになっていて可愛い。
 本当は競泳用の太ももまで隠れるタイプのものにしようかと思ったが、手に取った瞬間灯至が露骨に眉間に皺を寄せたのでやめた。
< 60 / 123 >

この作品をシェア

pagetop