ひねくれ御曹司は気高き蝶を慈しみたい

「やだ!!乗る!!乗りたい!!」

 観覧車の前までやってきた粧子の目に飛び込んできたのは、乗り場の前で泣いている五歳ほどの女の子の姿だった。
 
 誰もがチラチラと様子を窺ってはいるものの、話しかけようとする者はいない。

「あの……どうされました?」

 痛々しい女の子の泣き声を聞き、粧子は彼女を宥めていた母親に声をかけた。

「観覧車に乗るのに整理券が必要だなんて知らなくて……。この子、ヤングランドに来られるのも最後だから絶対乗るってきかなくて……」

 お騒がせして申し訳ないと謝る父親と、泣き腫らした目をする三つ編みの女の子の顔を見比べ迷わず決断する。
 幸いなことにコートの右ポケットの中には灯至から預かった整理券が入っている。

「あの……。よろしければ、こちらの整理券を使ってください」
「よろしいのですか?」
「はい」

 粧子は母親に整理券を渡すとその場にしゃがみ、母親の後ろに隠れる女の子の顔を覗き込んで明るく微笑んだ。

「私の分まで楽しんできてね」

 しきりに頭を下げる女の子の両親に手を振り乗り場を離れると、今度は灯至に謝罪する。
 
「すみません。つい勝手に……」
「いいのか?楽しみにしていただろう?」
「私よりあの子に楽しい思い出が残った方が何倍も嬉しいもの」
「つくづく変な女だな」

 怒ってはいないようだが、呆れ気味に言われてしまう。変な女とはどういうことか?と、ちんぷんかんぷんになる。
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