ひねくれ御曹司は気高き蝶を慈しみたい
知らなかった……。
粧子は猛省した。やむなく結婚したとはいえ灯至のことを知らなさ過ぎる。アメリカの大学を卒業したことも、日本に戻ってくることになった経緯も粧子は何ひとつとして知らなかった。
「槙島の奥様も優秀な灯至さんに戻ってきてもらえてさぞ嬉しかったことでしょうね」
「さあ、どうだか?槙島なんて古い体質の同族経営企業は資質はどうあれ血縁でさえあれば誰でもよかったんだろう」
自嘲気味に話す灯至に掛ける言葉が見つからなくなる。粧子は一瞬躊躇ったが、自分の嘘偽らざる本心を灯至に打ち明けた。
「私は……灯至さんが結婚相手で良かったと思っています……よ?」
もし、大叔母があの場所に住んでいなかったら二人は出逢うこともなく、今も赤の他人だった。人の縁というものは本当に不思議だと思う。何がどう繋がるのか、赤い糸の行き先を押しはかることは何人たりともできない。
灯至は驚いたように目を見開いたかと思えば、何かを飲み込むかのようにコーヒーを飲み干した。
「そろそろ時間だ。行くか」
「はい」
整理券に書かれている時間が迫り、二人はベンチから立ち上がった。相変わらず何を考えているがわからない灯至だが、鬱屈とした雰囲気は消え去ったいた。