LIBERTEーー君に
8章 ROSE
6月下旬、カフェ・モルダウ。

マスターが大学の講義がオンラインになり、連日、暇そうにしていた。

郁子は音楽史とドイツ語のレポートに行き詰まり、マスターと理久に救いを求め、モルダウで教科書を広げていた。

モルダウも、パーティションで座席を仕切り、1台飛ばしに間隔を開け、店の入り口には、体温計と消毒液を設置していた。

「やっかいなウィルスが流行してしまったよね」

マスターは一際長いため息をついた。

郁子のスマホがアマンダ・マクブルームが作詞作曲した「ROSE」の着信音を鳴らした。

「詩月からか? 珍しいな」

郁子は久しぶりの着信音に、驚きながらスマホを操作した。

ーーOgata. Kann ich jetzt reden?(緒方。今、話せるか?)

「Es ist lange her. Bußgeld? Sind Sie infiziert?(本当に久しぶり。元気? 感染はしていない?)」

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