猫と髭と夏の雨と
「璃乃……?」
薄々とした思考から記憶を取り出しても、核心だけが沸いて来ない。
「正解。ていうか、いきなり呼び捨て?」
「ごめん。璃乃ちゃん」
「全然しっくり来ない、いいよ、呼び捨てで」
顔など見えずに、態度すら分からない合間で、微笑む姿が脳裏に浮かぶ。
「どこ行けばいい?直ぐ向かう」
肩の間で携帯を耳にしたまま、施設の時計を確かめた。
「一緒に御飯食べよ」
何気ない誘いに靴下を履き、ズボンの裾へ足を滑らせる。
「いいよ、どこ行く?」
繰り返された光景に、煙を掛けて応えを待つ。
「じゃぁ、お髭さんがいつも行く場所」
躊躇いの無い返事に口元が綻ぶ。
「了解。迎えに行けばいい?」
見えもしないのに誤魔化し、虚無的な態度で気取る。
「メールで地図送って、タクシーで行く」
「了解。じゃ、あとで」