遊川くんは我慢ができない⚠



 今度はこの部屋の警報が鳴るかもしれないから、離れなきゃいけない。


 でも、この濃密な雰囲気を壊したくない。


 しっかりしなきゃいけないのに……噛みつかれてもいいなんて、おかしい。


「この長い黒髪とか」


 さらりと。私の髪が揺れた。


 遊川くんが指先で、もてあそんでいるから。


 切る時間がなくて伸びただけのかっこ悪いそれが、急に綺麗なものに見えてくるのはどうしてだろう……?


「こっからの女の子っぽい匂いとか」


 ふわりと。香りが私にまで上ってきた。遊川くんが髪を(すく)い上げたから。


 オシャレをする時間がなかった私が唯一こだわった、シャンプーの香り。


 優しいバニラの香りは私たちの周りを甘くうろつく。


「可愛い上に俺好みとか、絶対触りたくなる」


 そうして遊川くんの唇が私の髪へ触れた。


 ただし、それは一瞬のことで。


「それを我慢しなきゃいけないのは地獄なんだってこと、知っててほしいな!」


 はじけるような明るさを取り戻した遊川くんは、私からパッと離れて椅子に座った。


 それからのんきに麦茶で(のど)をうるおしている。


 一方で私は石化してしまっていて。



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