あの日の誓い
***

(ハナのことを思うあまりに、私はおせっかいなことをしちゃったのかな)

 連絡することができなくなってから、1週間が過ぎようとしていた。

 現在ハナが仕事に行っているのか、そしてどんな心境なのかすらわからず、心配になってハナの住む自宅マンションを訪れてみたけれど、インターホンを押せずに帰って来ている。

 告げられた『大っ嫌い』というセリフが、耳についてはなれなかったせいで、どうしても押すことができなかった。

 気落ちした気持ちを抱えたまま、いつものバーに顔を出したら。

「岡本さん、こんばんは」

 なんと、カウンターに津久野さんが腰かけていて、笑いながら私に声をかけた。一瞬、なにが起こったのかわからずポカンとしてしまい、戸口で固まったら、マスターがわざわざこちらに歩み寄る。

「絵里さん、いらっしゃいませ。どうぞこちらに」

 そう言って肩に手を添えて、津久野さんのいるカウンター席に導き、一番左端の席に誘導してくれた。

「いつもの作りますけど、それでよろしいでしょうか?」

「はい、お願いします」

 マスターが気を遣って、津久野さんと席を離してくれたおかげで、普通に接することができた。

「岡本さん……」

 ふたつ分空いた席から話しかけられたので、仕方なく振り向き、「津久野さんこんばんは」と挨拶する。

 彼の実態を知ってしまったゆえに、ハナのことを含めて罵詈雑言をお見舞いしたかった。だけどそれをここでやるのは、マスターに迷惑がかかってしまうのがわかるので、無理やり言葉を飲み込む。

「華代がずっと会社を休んでいるんですが、なにかご存知ではないでしょうか?」

「仕事を休んでいるんですね? 津久野さんとの連絡がとれていないから……」

「そうなんです。風邪をこじらせたので休みますという連絡をもらってから、一度も連絡がとれなくなっています」

 済まなそうな顔で現状報告されたけれど、私としてもハナがどうなっているのかわからないゆえに、知らせることが不可能だった。

「私とケンカしたことが原因なんです。なのでまったく連絡がとれていません」

 津久野さんの第二の愛人や奥さんの不妊治療を伏せた結果、ありえそうなことを理由にしてやる。

「華代が会社に来れなくなるような、酷い喧嘩だったんですか?」

「お互い、長い付き合いをしていると、遠慮なく物を申すせいでしょうね。しばらく頭を冷やしたら、見えなかったものがハッキリ見えてきて、仲直りできると信じてます」

 自分の願いを口にした私に、津久野さんはやるせなさそうな表情をし、グラスに残っているお酒を一気飲みした。

「俺と華代はそこまで長い付き合いをしていないから、頼られなかったということなんだろうか」

「ハナはああ見えて、自立していますから。津久野さんに頼らなくても、乗り越えることができますよ」

 本当は頼るに値しない男だと罵りたかったけれど、そこはきちんと我慢して、ハナがしっかりしていることをアピールした。
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