あの日の誓い
「絵里さん、お待たせしました。いつものです」

 そう言ってマスターがカウンターに置いたのは、ハナがいつも呑んでいるカクテルだった。

 わざとらしくオシャレなカクテルグラスを見つめてから、無言でマスターの顔を眺める。

「絵里さん、遠慮なさらずに、どうぞお召しあがりください」

 私の睨みもなんのその、マスターは涼し気な顔をして呑むことを進めた。仕方なくグラスを持ちあげ、一口呑んでみる。

(――うっ、やっぱり甘ったるい!)

 ハナのオーダーするカクテルは、どれも甘さのあるものばかりで、見た目も女子受けしそうなものばかりだった。一方私はアルコール度数の高い、口当たりのサッパリしたカクテルが多い。

 まるで私たちの性格を表しているようなそれに、ふたりそろって真逆だよねと笑いあったこともある。

「ハナってば、こんなに甘いカクテルばかり呑んで、よく飽きがこないんだな」

「華代があまりに美味しそうに呑むから、この間一口もらったものの、ジュースのような甘さに驚きました」

 辟易しながら言った私の独り言に、津久野さんは笑いながら相槌を打つ。

 私はグラスを目の前に置き、それをじっと眺めた。頭の中にぼんやりと浮かぶのは、私の隣で実に美味しそうにカクテルを呑むハナの姿だった。

「岡本さん、華代との喧嘩は深刻なものなのでしょうか?」

「それは――」

「多少体調が悪くても、無理を押して会社に出勤するくらい、華代は責任感の強い社員です。友人との喧嘩で休むのが、どうにも解せないと思いまして」

「津久野さんは、ハナが休んでしまうような心当たりが、なにかしらあるんじゃないですか?」

 さりげなく言い放ち、残っているカクテルを一気飲みして、マスターにお金を差し出す。

「絵里さん、今お釣りを――」

「マスターにお小遣い。ハナと仲直りさせようとして、わざとカクテルを作るお節介というサービスにお金を払うわ。また来るね!」

 こうして津久野さんにヒントを出して、この日はあまり酔うことなく、帰路に着いたのだった。
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