あの日の誓い
「輝明さんをどこかに縛りあげて、もうやめてくれって言うくらいの苦痛を与えてやりたいわ」

「私、それに協力します!」

 私の甲を撫で擦っていた手でいきなり挙手し、名乗りをあげたハナ。

「ちょっ、ハナ!?」

「奥様の手を汚さずに、私をうまく使ってください」

 ぎょっとする言葉を堂々と告げられても、親友として黙っているわけにはいかない。

「ハナ、自分がなにを言ってるのかわかってるの? 下手したら、警察に捕まるかもしれないんだよ」

「いいよ、それでも。私が全部罪を被る」

 言い出したらきかない、ハナのワガママが炸裂した瞬間だった。

「罪を全部被るって、みずからそんなことをしてまで、津久野さんに一矢報いることをしても、ハナひとりが痛手を負うだけじゃない」

「そんなのかまわない。それに私自身も部長にいいように騙されていたことが、悔しくてならないんだよ」

 ハナは沈んだ声で言いながら、切なげなまなざしを私に向ける。親友の悲しみを宿す瞳を目の当たりにしたからこそ、黙ってはいられない。

「暴走するハナを知っているからね。これをひとりでやらせるわけにはいかないよなぁ」

 ふふふと笑って後頭部で腕を組み、のけぞるように椅子に座って見せた。

「絵里?」

「頭のいいハナだから、頭の中で計画が着々と練られているでしょ? わかってるんだからね」

 脳筋の私と違い、ハナは昔っから頭がいい。だけど今回はその頭の良さに、恋という名のフィルターがかけられたせいで、まったく機能していなかった。

「本当に絵里ってば、私のことを理解してる。呆れるくらいにね」

「理解している親友を、ここぞとばかりに使ってやってよ。力仕事なら、喜んでしてあげる」

「岡本さん、斎藤さん……」

 イケナイことに加担する私を、ハナだけじゃなく奥様も驚いた顔で見つめた。そんなふたりに話しかけようとした瞬間、音もなく現れた人物が声をかける。

「あのぅ、すみません。その話に俺も参加したいんですけど」

「榊原さんっ⁉」

 見知った顔を覗かせた彼を見、ビックリついでに立ち上がってしまった。

「あー、絵里のアレね……」

 ニヤニヤしたハナを見なかったことにして、榊原さんに向き合い、困った様相で訊ねる。

「榊原さん、いきなり参加したいと言ったということは、これまでの話をどこかで聞いていたんですね?」

「実は話し合いをしているのが、どうしても気になってしまって、岡本さんたちの真後ろの席で、ちゃっかり聞き耳を立てていました」

 きまり悪そうに後頭部を掻いて告げる榊原さんに、はーっと大きなため息をついて見せてから。

「奥様、こちらは先ほど紹介しようとした、探偵事務所の所員さんです」

「ああ、夫を調査した方だったんですね。はじめまして」

「あ、どうも、榊原と言います……」

 慌てて立ち上がった奥様が頭を下げると、同じように榊原さんも深く頭を下げた。妙な雰囲気が私たちを包み込むのを感じたそのとき、ハナはいそいそ動いて、奥様の隣に移動する。

「ほらほらみんな、挨拶も終わったことだし着席して。榊原さんは絵里の隣に座っちゃってくださいね」

 テキパキ行動を指示したハナは、カバンから手帳を取り出し、私の隣に座った榊原さんに話しかける。

「榊原さんが参加したいと言った計画は、あまりよろしくないことですけど、そのことわかってます?」

 声をひそめて訊ねたハナに、榊原さんは大きく首を縦に振った。
< 34 / 66 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop