あの日の誓い
***

 頬を強く叩かれたことで、顔を歪ませながら瞼を開けると、怒った顔した自分の親父が目に映る。

(あれ? 俺は華代に騙されて薬を飲まされ、どこかの山の木に括りつけられてていたハズなのに、ここはどこだ?)

 親父の背後にあるのは青空のみ。なので自分のいる場所が、外なのはわかったのだが。

 目をこすってそこから起き上がり、周りを見渡してはじめて気づいた。自分のいる場所が、妻の実家の前だってことに。しかも俺の両親と妻の両親が、そろって俺を見下ろしている状態。それぞれの表情は硬く、不機嫌なのは明らかだった。

「輝明、自分のしたことがわかっているよな?」

「俺のしたこと……?」

「実況生中継で全部見させてもらった」

「!!」

 驚く俺の目の前に、妻の明美が出てきて、スマホの画面を見せつけた。

『確かに不倫したのは認める。でも俺は妻や華代が望んでいることをしたまでなんだ』

 太い木に鎖で何重にも括りつけられ、アイマスクをした俺が、誰かに向かって必死に叫ぶ様子が映し出されていた。

「輝明さん、私が子どもを望んだから、不妊治療を勧めたの?」

「そ、そうだ。子どもがいれば、俺がいなくても寂しさが紛れるだろうって」

 ほかにも理由を言おうとした瞬間に、妻の後ろから太い腕が伸びてきて、胸倉を掴まれた。烈火のごとく怒った義父が、俺の頬を往復ビンタする。

「くっ!」

「明美の寂しさが、そんなもんで埋まるわけがないだろ。しかも俺がいなくてもだと? 子どもは、ひとりで育てるもんじゃねぇ、両親がそろって育てるもんだ!」

 両頬を叩かれた痛みと鼓膜に突き刺さる大声に、顔が勝手に歪んだ。

「だって俺は仕事が忙しいし」

 ボソッと呟いたら、違う手が俺の頭を叩いた。叩かれ慣れているせいで、自分の親父がやったのがわかった。

「なにが仕事が忙しいだ。女ふたりを相手にするので、忙しいだけだろ。高田さん、本当に申し訳ございません。ウチのバカ息子のせいで、大切な娘さんを深く傷つけてしまって」

 俺を真ん中に挟み、両家が向かい合う。親父とお袋が妻の両親に頭を下げたのを見、慌てて正座をしてから、地面に頭を擦りつけて頭を下げる。

(あのときのことが実況生中継されたって、どこの部分から見られていたんだ? 最初から? それとも全部? 俺はなにを言ったっけ?)

「あのぅ俺は木に縛られて、いろいろ脅されたせいで、本当のことを言えてないところも……結構あるんですが」

 恐るおそる口を開いたら、義父が不機嫌を凝縮した声で返事をする。

「ぁあ? 本当のことってなんだ、言ってみろ」

 頭を下げているゆえに、目の前にはアスファルトがあるだけで、怒った相手の顔を見ずに済む状況下だからこそ、なんとか喋ることができそうだった。

「俺からその……女性に手を出したりしていないんです。みんな勝手に俺を好きになって、モーションをかけられまして、断っているのに、それでも食いついてきたというか」

 しどろもどろに答える俺の話に、なんのリアクションもなく、皆黙ったまま聞き入る。
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