真面目な鳩井の、キスが甘い。
 そう。私にとって鳩井は気まずい人なのだ。

 それは高校入学してすぐのこと。

 私と鳩井は、隣の席だった。

 世界はみな友達スタンスの私は、例にもれず鳩井にも話しかけまくった。


「ねーねー鳩井~」「鳩井の眼鏡って度数いくつー?」「鳩井!見て!昨日開発した新しい変顔だよ!」


 それはもう、どうでもいいことを授業中にベラベラベラベラと。

 それに対して鳩井は静かな省エネ対応で。


「うん」「忘れた」「……へぇ」


 その反応がなぜかツボに入っちゃった私は、さらにうるさくなっていったわけだけど、あるとき鳩井が珍しくちょっと大きめの声で言った。



「近い」



 普段だったら冗談かと思うんだけど、鳩井の眉間にグッと寄った皺から鳩井が本気で嫌がってるのを感じとった私。

 はい、すみません、としおらしく自分の席に戻るしかなかった。

 そしてそのあとのホームルーム、突然発表された席替えにより、私と鳩井は席が離れた。
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