小児科医の恋愛事情 ~ 俺を選んでよ…もっと大事にするから ~
「実は母のお墓が郊外にあるの。母に・・ママに祐一郎を紹介してもいい?」

カーナビに行き先を入力した時、霊園を指定したのはそういうことだったのか。
まさか彼女の母親だとは思わなかったけれど、既に他界していたんだ・・。

「お母さんはいつ? 病気で?」

「・・4年くらい前かな。もともと持病があったんだけど、少しずつ悪くなっていって」

「そっか・・。4年前だったら、俺はもう医師だったな。もっと早く知り合っていたら、何かできたかもしれない。残念だな・・」

助手席の彼女が、俯いて涙をこぼした。
お母さんのことを思い出しているんだろう。

「そんなふうに言ってもらえるだけで嬉しい。ありがとう」

「あ、茉祐、あそこに花屋がある。もうすぐ霊園だから、あそこで花を買おう」

「うん、そうだね」

立ち寄った花屋は霊園の近くにあるからか、大ぶりな花や香りの強い花はなく、やわらかい色合いのものがたくさん置いてあった。

彼女は白をベースに、黄色やオレンジを混ぜた明るい花束をオーダーしていた。
きっと、それが彼女の持つ母親のイメージなのだろう。

「ママは、太陽みたいな人だった。いつも笑っていて、暖かくて優しくて。私の憧れの人」

「そうなんだ、会ってみたかったな・・。会って、茉祐の話を聞きたかった」

アレンジしてもらった花を抱えて、俺たちは車に戻る。

ふと、気づいた。
そういえば、彼女が父親の存在に全く触れていないことに。

< 57 / 107 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop