小児科医の恋愛事情　～ 俺を選んでよ…もっと大事にするから ～
両親の話は、たいていセットだ。

なのにひと言も言わないところを見ると、やはり父親の話はしたくないのだろうか。
だとしたら、無理に聞き出すのもどうかと思った。

「茉祐、あの信号を左に曲がれば霊園だよ」

「うん。いつもひとりで来てたから遠い場所だって思ってたけど、祐一郎と一緒だとそんなことなかったな」

いつもひとり･･ということは、父親と一緒ではないということか。
仕事が忙しい人か、離婚･･だろうか。

いずれにしても、寂しかったことに違いはない。

「これからは、俺がいつも一緒に来るよ」

そう言って彼女の手を握る。
彼女の目元がまた潤んだ。

それを見て、俺もつられて泣きそうになったところをグッと堪えた。


車を霊園の駐車場に停めて、墓参りをする。
花を活けたり水やりをした後、彼女は天国の母親に向かって話し始めた。

「ママ････」

少し離れたところから、その様子を見ていた。
時々目元をぬぐったりしていて、すっかり涙腺が緩んでいるようだった。


『もう少し、踏み込んでみたらどうだ』

大翔が言ったことを思い出す。

確かに･･。
気持ちを閉ざして事実から逃げていたら、俺自身のことでさえ分からないままだった。

自分は嫉妬だらけの心の狭い男。
でも、もっと彼女を大事にして、彼女に選ばれたい。
そんな自分を、昨晩改めて自覚した。

茉祐のお母さん。
こんな俺でも、茉祐を任せてもらえますか･･？

秋晴れの空を見上げて、答えのない問いを放った。

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