この契約結婚、もうお断りしません~半年限定の結婚生活、嫌われ新妻は呪われ侯爵に溺愛される~

「えっ、あの……」
「申し訳ありません! お許しください!」
「え……。あの、その」

 驚いている間に、周囲の視線は完全に私たちに向いてしまう。
 いったいどういうことなのか理解できていない私を前に、少し興奮した様子のローゼリア様。

「火事であなたの命を危険にさらしたこと、お許しいただけないのは分かっております」
「え……。あの、ローザリア様のせいでは」
「ですが、神官の不始末は私の責任。どうか、寛大な処置を……」

 ざわざわとした音が、会場を支配していく。
 悪女、という言葉が聞こえてくる。

「あの、私は……」
「聖女、ローゼリア様。妹が困惑しておりますよ?」

 この事態をどう収束していいのか分からず、ディル様も戻ってこないことで私は実際に困惑していた。
 顔を上げると、茶色い髪に緑の瞳、私とまるっきり同じ色合いをしているにも関わらず、誰もが認める美男子であるお兄様が私をかばうように立っていた。

「お兄様!」
「ローザリア様? 先日の火事で、私の可愛い妹が危険にさらされたこと。夫であるサーベラス侯爵が負傷したことについては、正式に神殿に抗議申し上げ、公式に話は済んでいるはずです」
「そ、それは……。でも、ルシェ様が」
「妹が、何でしょうか? まさか、直接抗議したとでも言い出すのではないでしょうね?」
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