先生の隣にいたかった



「朝練、お疲れ様〜」



「日向もお疲れ様」



朝練が終わって教室に行くと、
既に日向は教室にいた。




「日向、数学のノート見せて」



「はいはい。
翔太君ってこうゆう時だけ、
いおじゃなくて私を利用するよね」



「まぁ、いおより頭いいからな」



「ちょっと失礼な!
翔太よりマシだと思うよ!?だよね、日向!」



「…肯定も否定もできない、ごめん」




「ひどいよ〜」



そう言ってみんなで笑う。




そんな当たり前な日常がずっと続けばいいのにって、ずっと心のどこかで願っていた。




「一限目って英語だよね?」



「うん」



「一緒に行こ!」



いつもなら(いってらっしゃい)って言っていた。




作り笑顔で、言う言葉だった。




先生のところに行く生徒が羨ましくて、
本当は言いたくなかったから。




「いお、先生の授業、受けられてよかったね」



「…うん。

日向、先生ってどんな授業するの?」



「難しい質問だね。


…でも、楽しいよ」




「そっか。…楽しみ」




日向は翔太のことが好き。


だから、大丈夫って分かっているけど、
楽しいよって言う日向に少し嫉妬した。


私の知らない先生を一学期の間、
ずっと見てきたことにも嫉妬した。


こんなちょっとしたことで私は嫉妬して、
モヤモヤする。



なのに、日向はいつも笑顔でいる。




きっと私なんかよりもずっと、
辛い恋をしていると思うのに。





「…日向。放課後、少し話せる?」



「今日は部活オフだから大丈夫だけど…
どうしたの?



…何かあった?」





「…放課後話そう?」




「…うん」




今は、日向の本当の気持ちが知りたい。


いつも誰かに合わせて、
自分の気持ちを抑えて。





まるで前の私みたいだった。



だから、日向もいつか
壊れてしまうんじゃないかって。






私のせいでこれ以上、
傷ついてほしくないから。





「授業はじめま〜す」


色々考えていると、先生が教室に入ってきた。



先生の初めての授業。





嬉しい…はずなのに、私は今、
日向のことで頭がいっぱいいっぱいだった。




「じゃあ、この問題解いて、
できたら隣の人と確認してみて」




先生がそう言うと、
一斉にみんなが問題を解きはじめる。








…先生。







私は先生が好きです。






…それだけなのに、
周りの友達を巻き込んで、



苦しめているんです。




どうするのが正解で、


間違いなのかなんてわからない。




分からないから、
私は、どうすればいいのかも分からない。





…私は、ただ









先生のことが、好きなだけなのに。







今思っていることを全部、言ってしまいたい。








誰にとかじゃなくて、





ただ、全部吐き出したかった。






「…七瀬?大丈夫?」




「…はい、大丈夫です」



でも、私の気持ちなんて、誰にも言えるはずなく、こうやって気持ちを隠して結局(大丈夫)って言ってしまう。





全然、大丈夫なんかじゃないのに、





自分自身に平気で嘘をつく。



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