私のお願い、届いてますか?
「…っ気の利いたこと、しなくていいよ…っ」

胸が苦しくなって、やっと言葉を絞り出す。

たしかに、寂しかったし、返信が遅いことだっていつもだけど、それにはちゃんと理由があって、それは私だって分かってる。

気の利いたことしちゃったら、不器用な秀人は、きっと研究の方も集中できなくなっちゃうんじゃないかって思ってる。

「…っ…こうやって、たまに一緒に過ごせるだけで、私は全部なしにできちゃうんだよ?」

溢れそうな涙を、自分の手の甲で拭いとる。

「…梨々香…泣くなよ…」

そっと手が伸びてきて、大きな秀人の手がわたしの頬に触れる。

「…涙、もったいないよ…」

そう言葉を付け加えて、秀人が私の頭をぽんぽん優しく撫でる。

「…秀人が…っ…急にらしくないこと言うからっ…」

そんな言葉が、私の口から出る。

「…ごめんって…。でも、引っ越しは、本気。梨々香の安全大事だから」

「…今まで大丈夫だったから…大丈夫だよ」

「ううん。梨々香はなんにも分かってない。いや、分からなくていいんだけど…」

と、どっちなのかよくわからないことを言う秀人がおかしくて、今度はクスッと笑ってしまった。

「とにかく、物件探しはするから…」

「うん…。ちなみに、何か見つかった?」

パソコンを指差して尋ねると、秀人は体の向きを変えてパソコンを開いた。

「…実は、意外と会社近くの方が、広くてお手ごろな物件がいっぱいある」

「そうなの?」

そんな会話をしながら、今までよりも少しお互いの心の距離が近くなったような気がした。





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