私のお願い、届いてますか?

side 相村秀人

泣いていた梨々香に笑顔が戻って、俺は心の中でホッとする。

俺自身も自分の行動力と決断力に若干驚いている。

人間関係、うまく築けない自分のことをよく分かっているからこそ、梨々香に辛い思いをさせてしまっているんだろうなと考えることはよくある。

昨日、久しぶりに甘い雰囲気になった俺達。

梨々香の潤んだ瞳に、俺は引き込まれて理性が飛んでしまいそうだった。

でも、すやすやと眠るあどけない表情の梨々香を目の当たりにした時に、自分の都合のいい時に抱いている気がして、自己嫌悪意に陥った。

「見て見て!ここ2LDKでこことそんなに値段が変わらないよ?」

さっきまで、引っ越すことに躊躇していたのに、すっかり楽しそうな梨々香。

「…他にもありそうだな」

そう返事をしながら、はしゃぐ梨々香をもう一度見る。

やっぱり、ちょっと雰囲気が変わった。出張で、自信がついたからか?

一言で言うと、

〝いい女〟

だと思う。いや、一言で言いすぎると誤解が生じるかもな。

日焼けだけじゃなくて、堂々としているオーラが出てきたと思う。だから、正直焦った。

今まででさえ、通りすがりの人の梨々香を見る視線が気になることだってあったのに、昨日の空港での男性の視線はさらに多くなっていた気がする。

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