君が月に帰るまで


「向田さん、きょうは日が落ちる頃に帰った方がいいと思います。5時をすぎれば少しずつ通りに人も増えるので紛れられると思います」

「ぼっちゃま、ありがとうございます。なんか映画みたいでワクワクしてきましたね!!」

なぜか喜ぶ向田。はじめの心配はつきない。ゆめは相変わらず目を伏せて申し訳なさそうにしていた。「ゆめ、ちょっとテレビゲームしない?」

「てれびげーむ? やりたい! いいの?」

「いいよ、息抜き。こっちきて!」

食べ終わった食器をシンクに置くと、向田が片付けてくれると言うので頼むと、リビングのソファーに二人で座った。

「見たことある? テレビゲーム」

「うん、ちょっとだけ」

はじめはゆめにコントローラーの説明や、ゲームの説明を簡単にして始めた。
最初にやったパズルゲームは、上から4色のついた丸がたくさん落ちてきて、色ごとに並べるとどんどんそれが消えていくゲーム。ゆめは気に入ったようで何度も何度も繰り返しやった。

次はカートを運転して、順番を競うゲーム。ゆめはこれの方が好きだったのか、バツグンのゲームセンスを発揮。はじめが負けることもあった。

はじめは、ゆめがゲラゲラ笑って楽しんでいる姿を見ると、少し安心した。

いつも間にかもう15時。今日の月の入りは17時23分だ。

「はじめ、勉強いいの?」

ゆめが心配そうにはじめの顔を覗き込む。

「いいよ、ちょっとくらい」

カートのゲームのステージ選びをしながらはじめは言う。

「ふたりとも、おやついかがですか」

向田がケーキを焼いてくれたようで、ソファーの前のローテーブルに、二人分の紅茶とケーキが並んだ。
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