君が月に帰るまで

「私とゆめちゃんも似てるけど、もちろんはなと私も似てて。それなりに攻防はあったよ。でも、零はそんなことがあったなんてしらないんじゃないかな。女同士でバチバチやってただけだから。淡い高校生の思い出だね」

「はぁ……」

「さ、これでよし。かえでちゃんの手伝いをしよっか」

「あの、詩穂さん。髪の毛を切るお仕事されてるんですよね? よかったら私の髪の毛を切ってもらえませんか?」

「ええっ!? ゆめちゃん、その美しいロングヘアを切るの?」

「お願いします。どうしてもみんなと一緒に公園に行きたいんです。切れば見た目は間違いなく変わるので……お願いします」

***

「ったく、人使い荒いよな。はじめは」
「本当ですね、200セットって……このタクシーに乗るのかな。一応ジャンボタクシーではあるけれども」

朔の運転するタクシーの中で、夏樹と零はまだボヤいていた。

「お二人とももうすぐ着きますよ」
「はーい」
「了解」

朔がコインパーキングにタクシーを止めに行っている間、夏樹と零は先に駄菓子の問屋街へ向かって歩き出していた。

「あの、零さんはゆめの消失について何か他にも知っているんですか…?」

夏樹にそう訊かれて、零は目を丸くしたが。すぐにこたえた。

「ん? 何も? フェイク動画だろ? タチ悪いよなほんと」

あははと笑いながら、零は夏樹の少し前を歩いていく。
気づいてて何も言わなかったんだな。夏樹っていい奴じゃん。そう思いながら、問屋街を目指した。

駄菓子の問屋街は個人にも売ってくれるお店がほとんど。零は大きなところに目星をつけて200円の詰め合わせを、200セット欲しいというと、びっくりされた。

ひとつひとつ今から詰めるのでは人手が足りないと、近隣の店の人を助っ人として集めてくれ、それに零たちも混じって、袋詰め作業が始まった。

「お兄ちゃんたち、こんなにたくさんってことはなんかイベントかい?」

店の奥のスペースで袋詰めをしていると、ひとりのおじさんに声をかけられた。

「今日の夕方、A駅公園で大長縄大会やるんすよ」
「そりゃおもしれぇな。ちょっと待ってくれよ。おーい! 美佐子」

反対側で作業していた女性をおじさんはこっちに呼んだ。しゃべっても手は動かす!! と叱られる。「なに? おじさん」
「こいつらのイベント、告知してやってくれよ。お前が言えば効果抜群だろ?」

美佐子というこの人は、問屋街のインフルエンサーで問屋街の魅力を動画配信しているらしい。中でも、駄菓子メシという、駄菓子を料理につかう動画が人気でメディアにもよく取り上げられるそう。
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