君が月に帰るまで


「きれい?」

「うん、よく整頓してある」

ニコッと笑って、ゆめはローテーブルの前に座った。はじめは勉強机のイスに腰かけ、ぐるっとゆめの方へ向きを変える。
「話って、昼間のこと?」

ゆめは黙ってうなづいた。

「僕の方こそ、ごめんね。ゆめが無事でよかった。怪我はどう?」

ゆめは浴衣の裾を少しめくってスネをみせる。すり傷になってはいるが、たいしたことなさそうだ。

「ちょうどぬかるみにつっこんじゃって。恥ずかしいよ」

困ったような顔ではははっと笑う。なんか……変? 笑ってるのに、泣いてるみたい。

「やっぱり明日からは僕が家まで送ってくよ。明日の月の入りは12:35だから、ちょうどお昼の休憩時間だし安心して」

ゆめは目を伏せたまま、コクンとうなづいた。

「公園でなにしてたの?」

「のんびり散歩しながら帰ってて。ほら、まだ家と塾にしか行ってなかったし。公園の木々にも挨拶してたんだ」

ニカっと歯を見せて笑っているが、やっぱりおかしい。悲しい顔をしたり、笑顔になってみたり。気分がジェットコースターに乗ってるみたいに、上がったり下がったりする。

「それでね、公園の時計を見たらもう11時21分だったから、あわててトイレに駆け込んで……ウサギになる姿は見られてないと思うんだけど……」

なるほどそういうことか。夏樹の言っていたことの合点がいく。見られなかったのは不幸中の幸いだったのかも。「見られなくてよかったね。」

「ほんと、ここで終わりじゃ来た意味ないもの」

小さく息をつくゆめ。せっかくの地球見学。いっぱい楽しみたいよね。

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