君が月に帰るまで


ゆめ、目が腫れてる。ずっと泣いてたのかな。昨日のことがそんなに怖かったのか。「もういいよ。大丈夫だから。ね、お腹すいてない? きのうから何も食べてないでしょ? 向田さんが作ってくれたオムライスが冷蔵庫にあるから、よかったら朝ごはんがわりに食べる?」

「……うん」

「じゃあ、リビング行こう」

時刻は6時30分。薄暗いリビングに電気をつける。はじめは冷蔵庫からオムライスを出すと、電子レンジに入れ、オートボタンを押した。

「はじめ、ほんとにごめんね」

はじめのうしろをついてきたゆめが、キッチンのカウンター越しに声をかける。

「いいよいいよ、僕、よく人を怒らせちゃうんだよね。何考えてるかわかんないとか、冷たいって言われたこともあるし。きのうも、話題変えようと思ったんだけど、なんか間違えちゃったみたいで」

えへへと後ろのゆめに笑いかけると、涙を溜めて震えている。えっ……また怒りスイッチが……?

「はじめは、冷たくなんかない! 優しいだけでしょ? 相手のこと考えすぎていろいろ言えないだけでしょ? はじめのこと悪く言うやつなんか許さない!! もっとはじめは怒っていいよ!!」

待って待って。なになに?

「ゆめ、ちょっと落ち着こう?」

ふーっふーっと肩で息をしているゆめ。もう訳わからん。
はじめが呆れて息をつくと、電子レンジがチーンと鳴った。ダイニングテーブルを指差してゆめに座るよう促す。
無言でゆめの前にオムライスとスプーンを置いた。

「……ごめん。私、なんか昨日からおかしくて……。ちょっと頭冷やすから、きょうは塾休むね」

「……わかった。ゆっくり食べて、僕少し勉強してくる」

そう言ってゆめに背を向けた。
< 40 / 138 >

この作品をシェア

pagetop