君が月に帰るまで
「まあ、こんな都会に。どこからきたのかしら」

向田も不思議そうに首を傾げる。
そのかわいらしさに、はじめはたまらずウサギを抱き上げて、家に招き入れた。

「ああ、ぼっちゃま、ウサギの足を拭かなくては」

ウェットティッシュで足を拭かれたウサギは、文字通り脱兎の如く駆け出して、リビングを出て行く。

「待って! どこ行くの?」
「まあ、勝手に……!」

はじめと向田が慌てて追いかけると、ウサギは祖父が使っていた離れの方へ向かっていく。離れといっても母屋と廊下で繋がっていて、ドアを開ければ行き来は自由だ。

昨年、祖父が亡くなってからは使っていない。どうやらそっちに行きたいらしい。廊下の先にあるドアを開けると、ウサギはトイレの前で座り込んだ。

「トイレなの?」

はじめが声をかけて扉を開けると、昔ながらの和式のトイレがどんっと現れる。向田が掃除してくれているので、使ってはいないがいつもきれいだ。

あわててた様子でウサギはトイレに入っていく。
なんだかトイレ中の姿を見るのもかわいそうかと思い、ドアを閉めて待っていると物音がする。中をのぞくと器用に前足でレバーを押して、水を流しているところだった。

「まぁ」
「すごいね」

はじめは、すごく品行方正なウサギだなと感心した。ここまで躾けられているのならペットに違いない。

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