死グナル/連作SFホラー
ある告白⓶
安原鈴絵




そういった心象作用が訪れる頻度は、ここ数年でどっと増してきました。
これ…、私にとっては途方に暮れるほどの、とても恐ろしい現象でした。


絶対的な存在の死というカベ…、それに押しつぶされる瞬間…。
今いる世界の今ある”自分”というものを包む、この空気が消えた後の空間こそ、地獄ということなのでしょうか…。


***


その想像する恐怖のイメージを、私の瞼に”カタチ”として差し出されたものが、いわば死の心象だったのです。
その具体像は、顔…、人間の顔でした。


私の場合は、年来の仕事仲間で内装業を営んでいた畳職人の故小原源一さんの”あの顔”…。
そう言うことになるのです…。


それこそ、生ある彼の”死の最中にある顔”だった…。
その顔が彼の生存中に、私の瞼に届いたのです。


ひょっとしたら彼は、死というものを生きているうちに捉えた姿として、無意識に私を選んで投影していたのかも知れません。


いずれあの世に着く、わが身の未来像を以って…。
それならば私にとってのそれとは、ある種のシグナル…、ではないのだろうかと思えてならないのです。


***


そして、そのことは小原さんが昔、私に語ってくれたあの話…。
そう…、1枚の畳の裏にまつわる想像を絶するおぞましい出来事を、私が知ってしまったことに由縁している…。
これは、もはや私の確信とも言えました。


私はここで、今は亡き小原さんが実際にその出来事が巻き起こった現場に触れ、私にその一部始終を伝えてくれた恐ろしいエピソードを今一度振りかえる決断に至りました…。


そう…、あの忌まわしくも信じられない話を小原さんから聞いたのは、今から10数年前の夏…。
同じく仕事仲間だった、電気工事会社の社長が急死した折のお通夜の席でした…。





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