死グナル/連作SFホラー
畳の下①
元不動産業:安原鈴絵の場合



その夜…、焼香を済ませた後、通夜振る舞いの席で、私は小原さんの隣に着きました。


「ああ、小原さん…。本日はご苦労様です。…隣、いいですか?」


『おお、鈴絵さん…。どうぞ、空いてるから』


「じゃあ…」


その後、二人は通り一遍のあいさつ話を済ませると、自然に”故人”へと話題は移ったのです。


***


「しかし、急だったですね。時田さん、病気とは無縁の人だったと思ってましたから…」


『そうだよね…。あの人が一番健康だったから。みんな驚いてるよ。まったく、人の命もあっけないもんだ…』


ここまで話したところで、小原さんは一呼吸おくと、ちょっと声のトーンを変えて再び口を開いたのです…。

『…鈴絵さん、時田さんとはF町の新築現場で、仕事一緒になっていたんだ。今月から着工に入ったとこで、こっちはまだ後だが、ついこの先日、水道の谷さんがさ…。現場で時田さんと会って、架設電柱を先にって段取りを済ませたらしいんだが…。その際、時田さん、”では、お先に行かしてもらいます”ってね。なんか、いつになく丁寧に頭を下げてきたそうなんだよ…』


「そうですか…」


私はそう軽く受け流していたのですが…。


***


『…それから数日して、時田さんがぽっくりだったんで、谷さん今日も気にしちゃってたよ。妙に改まった感じで、”ではお先に…”ってことだったから』


なるほど…。
そういうことか…、と、私はやっと気づきました。


「確かに谷さんの考えすぎでしょうけど、どうしてもそういう感じには捉えちゃいますよね…。こんな急では…」


時田さんの死因は、急性心不全で急死ということでしたから。


『しかしさあ、俺なんかもこの年になってあちこち持病抱えてて…、同年代の近しい仕事仲間にあっけなく逝かれちゃうと、いろいろ考えてしまうよ。要は”死”についてになるが…。それはいつも頭の隅にあって、生きてる間、ずっと忘れるなんてことないよね、誰だってさ…。だからこそ、こういう機会では日ごろとは違った”死”の形が頭に降りてくるんだ』


「小原さん…」


明らかに小原さんの顔つきが変わっていました。
この人は典型的な前向き志向で、くよくよするようなタイプではなかったのでちょっと意外でしたが、言ってることは至極当然ですし、さして気に留めることはなかったのです。
この時は…。




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