死グナル/連作SFホラー
畳の下⑥
元不動産業:安原鈴絵の場合
それは…、その屋敷の畳工事を行った5年もあとのことだったそうです。
その年の梅雨時、小原さんはトラックに追突され、大けがをして半年ほど病院生活を強いられました。
「じゃあ、異変はあの時の事故直後ってことだったんですか…」
『うん、最初は確かにあの時だった。はは…、鈴絵さんにも見舞ってもらったよね、あん時は…』
小原さんはそう言って、目を細めていましたが、まさかあの交通事故の時にそんなことが…。
私がちょっとショックを受けたのは事実です。
***
あの事故で小原さんは、生死をさまよう重傷を負いました。
その最中、彼の脳裏に映ったというのです…。
『今から振り返れば、事故った瞬間、完全あの世にいくって思ったわ。そして意識を失った…。そこでは時間は止まってた。でさあ…、そこで俺が暗闇の中で目にしたもの…。それ、顔だったわ。人間の』
「…」
『ただし、はっきりと分かったのは、その顔、死人なんだよ。どこがどうって口では説明できないが、それはおぞましい顔してた…。目が目であって、人間の生きてるそれではない。息遣いも伝わってくるが、もはやその息は生の営みではなかった。吐き出されるそれは鉛のようにどんよりと重い…、そんな感じだったよ。ただし、生を受けたことのある人間ってのは、不思議と実感できた』
「それで、その人って…」
『ああ、まさしくAさんだった。でも、その顔は30代くらいのAさんなんだ。要はその時点から数十年前の彼の顔ってことになる…』
「ちょ、ちょっと待てください…。小原さん、確か、そのAさんと面識、なかったんですよね、その時は…」
『そうさ。実物どころか、写真もね。例の屋敷にも、写真はなかったから、完全にあの時の俺が彼の顔など知り得る訳はないよ』
そう言うことでした…。
そして、なぜそんなことが…、ということになる訳ですが…。
元不動産業:安原鈴絵の場合
それは…、その屋敷の畳工事を行った5年もあとのことだったそうです。
その年の梅雨時、小原さんはトラックに追突され、大けがをして半年ほど病院生活を強いられました。
「じゃあ、異変はあの時の事故直後ってことだったんですか…」
『うん、最初は確かにあの時だった。はは…、鈴絵さんにも見舞ってもらったよね、あん時は…』
小原さんはそう言って、目を細めていましたが、まさかあの交通事故の時にそんなことが…。
私がちょっとショックを受けたのは事実です。
***
あの事故で小原さんは、生死をさまよう重傷を負いました。
その最中、彼の脳裏に映ったというのです…。
『今から振り返れば、事故った瞬間、完全あの世にいくって思ったわ。そして意識を失った…。そこでは時間は止まってた。でさあ…、そこで俺が暗闇の中で目にしたもの…。それ、顔だったわ。人間の』
「…」
『ただし、はっきりと分かったのは、その顔、死人なんだよ。どこがどうって口では説明できないが、それはおぞましい顔してた…。目が目であって、人間の生きてるそれではない。息遣いも伝わってくるが、もはやその息は生の営みではなかった。吐き出されるそれは鉛のようにどんよりと重い…、そんな感じだったよ。ただし、生を受けたことのある人間ってのは、不思議と実感できた』
「それで、その人って…」
『ああ、まさしくAさんだった。でも、その顔は30代くらいのAさんなんだ。要はその時点から数十年前の彼の顔ってことになる…』
「ちょ、ちょっと待てください…。小原さん、確か、そのAさんと面識、なかったんですよね、その時は…」
『そうさ。実物どころか、写真もね。例の屋敷にも、写真はなかったから、完全にあの時の俺が彼の顔など知り得る訳はないよ』
そう言うことでした…。
そして、なぜそんなことが…、ということになる訳ですが…。