死グナル/連作SFホラー
畳の下⑤
元不動産業:安原鈴絵の場合



『…やがてAさんはどこか精神を病んでいったようで、まあ、表面的には痴呆の気ってことで通していたそうだが、あの時はその手の施設にね…。Aさんの息子夫婦は、もしこのことが気になるようだったら、仕事は辞めてもらってもいいと言ってくれたよ。あくまでも善意からだったと思う』


「そうですか…。それで、小原さんはどうしたんです、そのあと?」


『いや、畳は最後までやったよ。施主さんの要望通りにね。まあ…、作業中も、床の間んとこの畳は気になってはいたよ、そりゃあ…。正直、なんか気味わるかったし』


「さすが、プロ根性ってとこですかね、小原さん…」


『うーん、一応、人の紹介だし、やっぱりね。でもさ、鈴絵さん…。それだけじゃあ、終わらなかったわ、その畳の関連…』


こう私に告げたあと、小原さんはじっと私の顔を凝視していました。
それこそ、じっーと…。
私は今も、あの小原さんが見せた表情を忘れることができません。


***


『…その現場は、無事終わったんだ。何も起こらずに…。施主さんのご夫婦にも喜んでもらえてね、支払いもわずかだが色を付けてくれ、即いただけたし』


「じゃあ…」


『うん…、コトはその後、数年してからだったよ』


私はこの間僅かで、様々な推測が頭に浮かびました。
様々なコトが…。


ところが、小原さんの経験した不思議な出来事は、私の想像すべてに当てはまりませんでした。
それは、実に予想外の、驚愕の”現象”だったのです。





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