二度目の好きをもらえますか?
「さっちゃんがお友達の家に遊びに行ってた時ね。賢二くん、引っ越すからって会いに来てくれた事があったの」

「えぇっ、なにそれ! 聞いてない」

「言ったわよ、ちゃんと」

 ……え。

 お。覚えてない……。

「そう、なんだ」

 ちゃんと頭に入れてなかった事が何となく申し訳なくて、私はおずおずと彼を見上げる。賢ちゃんは小さく笑って、首を傾げた。別に気にしてない、と言うように。

「離れちゃうけど、大きくなったら結婚させて下さいって言われたかしら?」

 懐かしいわね、と続け、お母さんはふふふ、と笑う。

「とにかく、玄関先もなんだから賢二くんも上がってちょうだい。二人とも雨に濡れたんでしょう? 頭も服も濡れてるわ」

 お母さんに急かされて、私たちは三和土(たたき)に靴を揃えた。座って濡れた靴下を脱いでいると、お母さんがフェイスタオルを被せてくれる。

「さっちゃんは二階に上がって、一度着替えてきなさい」

「あ、うん」

「あと、賢二くんのお家に忘れたリュックは部屋に置いてあるからね?」

 あ。そうなんだ?

「ありがとう、お母さん」

 私は所在なさげに佇む彼に、目を向けた。
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